2022/02/08
※本記事は2020年8月20日に部内サイトに投稿したブログの転載です。
https://www.oreilly.co.jp/books/9784873118482/
Camille Fournier 著、武舎 広幸、武舎 るみ 訳、及川 卓也 まえがき
2018年09月 発行
312
ページ
KDDIのアジャイル開発は、1チームから始り、今やアジャイル開発センターとして大きな組織となっています。これまでも社内にこれまでなかったロールとして「社員エンジニアとは?」「スクラムマスターとは?」など各自が自問自答しながら、あるいは社外事例を参照しつつ同じ立場同士で意見交換しながら形を作ってきたかと思います。 そういう新しいロールの集まりであるセンターの管理職とはどうあるべきなのか? これから「エンジニア組織」と胸を張って社内外にアピールしていく上で、その管理者は「たまたま任された部署がアジャイルやっていただけ」の普通の管理者で良いのか? 最近多く聴くようになった「エンジアリングマネージャー」と比べてどうなのか? そのように思うようになったのがきっかけで本書を手に取りました。
本書は、(ソフトウェア)エンジニアから、メンター、テックリード、数人の管理者、チームの管理者、複数チームの管理者、管理者の管理者、技術担当VP・CTO、と順を追って役目や必要なスキルについて解説しています。
前半については「マネジメントへのキャリアに興味は無い」という人が読んでも興味深い、大いに参考になる内容だと思いました。特にテックリードに関しては、多くの人が漠然と考えている役割と随分異なるのではないかと思いました。本書はアジャイルの実践組織に特化していませんが、それでも頻繁にアジャイルの場合について記載されています。(スクラムマスターという言葉は出てこないので)明示的には書いていませんが、当社ではスクラムマスターに求められているような役目のいくつかは、本書では(本書が参照している様々な文献やブログ記事でもですが)テックリードの役割とされています。例えばプロジェクト管理の役割や、チームの生産性に対する責任などです。
テックリードの章の中に含まれる「3.5 決断の時 ー 技術職を貫くか、管理職への道を選ぶか」は若手の多くの皆さんが興味をそそられる見出しではないでしょうか。ちなみにこの節のコンテンツは以下のようなサブタイトルを含んでいます。読んでみたくなりませんか?
私の想像していた「(部下をもたない)シニアエンジニアとしての日々」
現実の「(部下をもたない)シニアエンジニアとしての日々」
私の想像していた「管理職としての日々」
現実の「管理職としての日々」
本書を読む上で、背景の違いとして留意した方が良いと感じたのは、当社では一般的にパートナーエンジニアとチーム編成しているので、社員エンジニアはかなり早い段階から「人やチームのマネジメント」に分類される役割を望む望まないに関わらず部分的に担うことになっている、という点です。もともと米国の話なので日本と合わない点はありますが、本書で各段階で担うことになる役目を見ると、アジャイル開発センターではパートナーを社員がある意味部分的に「管理」することも求められるため、多くの点で一つ上の階層の役割が求められているように見えました。そのため玉突きとして、複数チームの管理者は本書では「技術部長」とされていますが、私たちのセンターでは大部分はグループリーダーが担っている感じかと思います。
また、本書における「技術部長」はチームの健全性を見たり、技術的事項の決定に責任を持つためにはコードを書いた経験やスキルのバックグラウンドが重要だとされています。もう業務としてコードを書くことでチームに貢献する時間はとれないはずだとしながらも、ITスキルを維持するために、たまには小規模のバグへの対処やちょっとした機能の作成をペアプログラミングで参加したり、コードレビューを請け負ったりする時間をなんとか捻出することも推奨しています。それによりコードのデプロイが遅すぎるとか、チームが抱えている負債に気付くきっかけにもなると。そういう勘所を失わないようにすることが技術系管理者として重要だと位置付けられています。
技術系の経営幹部がどういう業務をしなければならないか、普段はイメージすら難しいですが、後半の職位について(これが当社の幹部にどれくらい当てはまるかはさておき)ざっくりと理解には良い読み物かと思いました。詳細は割愛しますが、技術部門が他の幹部たちに「ただの実行部隊」とみなされないようにするための話や、CEOはじめ上層が決める優先度が大きく変わり現在進行中のプロジェクトへの影響が必至のとき、どう現場と向き合うかという話など、上の方ならではの葛藤について書かれていました。
一例ですが、以下のような実践的な内容も多く含まれています。
1on1の進め方
スキップレベルミーティングで2ランク以上離れた部下から情報を得るコツ
キャリアラダー(キャリアの梯子)の作成方法
「ブリリアントジャーク」や「プロセスツァー」など技術系ならではの問題児の対処法
コア・バリューの活用
などなど。
また各章に「すごい上司、ひどい上司」という節があり、自分が反面教師の方の振る舞いになっていないか、何度も自問しながら読み進めました。
全体的に平易で読みやすい文章でした。