2021/02/04
KCPSおよびKCPS ベアメタルサーバーのプロダクトオーナーを担当している來嶋です。
今回、ここ1年弱で私が新たに手掛けてきた新サービス「Zadara Cloud Storage」およびそのコンセプトである「マルチクラウドストレージ」についてご紹介したいと思います。
本サービスはこれまで私がご紹介してきた自社開発のKCPSとは少し異なり、米国のストレージサービスプロバイダである「Zadara Storage Inc.」社とKDDIのコラボレーションにより提供する閉域接続のStorage as a Serviceです。KDDIの国内データセンターにて、KDDIのネットワークサービスであるKDDI Wide Area Virtual Switch(WVS)によるコネクティビティと、Zadara社が提供するマルチプロトコル対応ストレージを組み合わせることで、オンプレミスやあらゆるクラウドから安全に接続し、利用する「マルチクラウドストレージ」のコンセプトを実現するための第1歩としてリリースしました。
主にクラウドのIaaSのレイヤーにおいて、KDDIは自社開発のKCPSのみならずAmazonのAWS、MicrosoftのAzure、GoogleのGCPなど、お客さまの課題に対して適材適所にクラウドをご提案できる「マルチクラウド」をクラウド事業の戦略としています。一方で、現状はこれら個々のプロダクトをお客さまに合わせてご提供するに留まり、複数のクラウドを横断的に「マルチに」扱っていくようなことが出来ていませんでした。
そんな中、パブリッククラウド活用で日本より進んでいるグローバルの動向として、「データのパブリッククラウドからの回帰」という動向をちらほらと聞くようになりました。近年データの量は爆発的に増加し、ストレージに求める要件として「スケーラブル」であることが非常に重要となった結果、クラウドストレージの需要は高まる一方です。
にも関わらず、なぜ回帰が発生するのか。そこにはパブリッククラウドの特徴である「データ転送料金」、特にクラウドから外へ出る方向の従量課金に懸念を感じるユーザがいることが分かってきました。一旦重要なデータを1つのクラウドの中に格納すると、後から別のクラウドでデータを活用する際に取り出しに余計にコストがかかってしまう。これを避けるために、データはクラウドの外に保持しておいて、必要に応じて使いたいクラウドへデータをコピー、そこで処理を行って結果となる「価値」を生み出す。このようなより一歩進んだ使い方を見越した考え方であることが分かってきました。
図:マルチクラウド化による課題(左図)とデータ保存の回帰(右図)
実際日本国内でも、システムごとに最適なパブリッククラウドを選択しマルチクラウド化していった結果、データが分散しデータ活用の障壁になっている声も出始めているため、このようなマルチクラウドストレージのニーズは顕在化してくると考えています。
近年、コンテナ化などが進みコンピュートのワークロードはあらゆる環境で同様に実行できる、という環境になりつつあります。では、せっかくコンテナ化したこのワークロードを本当にポータブルに、すなわち必要に応じてクラウドA、B、Cと使い分けられているか、というとそうではないようにも思います。どうせなら、その時々で一番安い環境にデプロイして動作させたいですよね。結局コンピュートをいくらコンテナにしてポータビリティを上げても、コンピュートが処理するのはインプットされる「データ」である。このデータが特定のクラウド上にあり、そこからの取り出しに費用がかかる以上、クラウドを跨いでの真のワークロードのポータビリティは実現できないのではないでしょうか。
今回マルチクラウドストレージのコンセプトはそのような状況に一石を投じられないかと考えます。データをクラウドの外に保有する、言うなればコンピュートとデータを疎結合にすることで、コンピュートをより選択しやすくする。モバイルナンバーポータビリティで携帯電話のガワと中身の重要なデータ(電話番号)が疎結合となり相互の移行が加速したのと同様、クラウド間の移行・使い分けが促進される、そのような使い方にシフトしていくのではないかと妄想しています。
本投稿では、Zadara Cloud Storageそのものよりも、まずは提供にあたってのコンセプトである「マルチクラウドストレージ」について主にご紹介しました。本コンセプトは上記の通り、将来の賢いクラウド活用・使い分けを見越してのコンセプトではありますが、クラウドからの回帰は何も低レイヤーのストレージインフラにとどまらず、データウェアハウスなどより広義でのデータの回帰のあり方についても検討が必要になっていくと考えています。また解決策としてもデータを外に保持するのではなく、GoogleのBig Query Omniのように、他クラウドにあるデータを横から使うというアプローチも今後益々増えていくと考えられ、何がお客さまにとって真に価値があるのかを引き続き模索していきたいと思います。
今回の記事では触れませんでしたが、Zadara Cloud Storageは現状ストレージインフラを運用するIT部門の方の課題を解決する一助として「ストレージ集約」の可能性についてもご提案しています。こちらについてはまた改めて本ブログにてご紹介していきます。