2023/06/14
KDDI アジャイル開発センター(以下 KAG)の中島(@piyonakajima)です。 アジャイル開発の世界でとても重要と言われている「ふりかえり」についてお話ししたいと思います。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進には組織の柔軟性とスピードが不可欠です。この目標を達成するための重要な手段の一つがアジャイルです。これらのアプローチにおいて、「ふりかえり」は、学習とカイゼンというアジャイルの精神を具体的に行動に移すキープロセスとなります。つまり、ふりかえりは、組織の DX を進めるための架け橋とも言えます。DX の推進を始める第一歩として、まずは「ふりかえり」から始めてみませんか?
また、その具体的な手法である「KPT」と「Fun Done Learn」についてもそれぞれ説明し、私たちのチームでどのように活用されているかご紹介します。「ふりかえり」の良さを知ってもらい、チームで学習やカイゼンを進めるきっかけになって頂けると幸いです。
特にありません。
ふりかえりとは、ここではチームが今より良い状態になるために話し合い、より良いやり方を見つけることでチームの行動を変えていく活動を指します。 中でも、私たちが取り組んでいるアジャイル開発ではこのふりかえりが重要であると言われていますが、「ふりかえり」はアジャイル開発に限った話ではありません。 チームで動くすべての活動に組み込むことができ、チームをカイゼンし成長させる手助けをします。
ふりかえりは、プロジェクトやチームの成功のためには欠かせません。ふりかえりにより以下のような効果が期待できます。
学習と成長:ふりかえりは過去の経験から学ぶことを可能にし、その結果として個々のメンバーとチーム全体の成長を促進します。成功した点や問題点を定期的に話し合うことで、チームは何が機能し、何にカイゼンの余地があるのかを理解することができます。
カイゼンのための行動計画:ふりかえりはただ問題を特定するだけでなく、それらの問題に対する具体的な解決策を検討し、実行する手かがりを提供します。これにより、チームは絶えず自身のプロセスをカイゼンし、より効果的な方法で目標を達成することが可能となります。
コミュニケーションと協調性の強化:ふりかえりはチームのコミュニケーションと協調性を強化します。共有の認識を作り出すことで、チームメンバーはお互いをよりよく理解し、共同で問題を解決するための新たな視点やアイデアを共有することができます。
問題解決のスピード:定期的なふりかえりにより、チームは問題や障害を早期に発見し、それらに対応することができます。これにより、問題が大きくなる前にそれを解決し、プロジェクトがスムーズに進むことを実現します。
したがって、ふりかえりは組織の学習、カイゼン、成長を実現する重要な施策です。 次にふりかえりの具体的なフレームワークである「KPT」と「Fun Done Learn」について詳しく説明します。
「KPT」(けぷと)とは、ふりかえりに使われる手法のひとつで、「Keep」、「Problem」、「Try」の頭文字をとったものです。以下それぞれの観点でチームメンバーから意見を集めていきます。
Keep : うまくいった点や、今後も続けていきたい良い行動や習慣などをリストアップします。 Problem : 問題となった事項や課題などを挙げます。 Try : 「Keep」「Problem」を基に、今後試してみたいカイゼン策や新たな取り組みを考えます。
KPT は、フィードバックを効率的に収集し、カイゼン点を明確にし、次回のプロジェクトや活動に活かすためのフレームワークとしてよく用いられます。これにより過去の経験を学びに変え、将来の活動やプロジェクトのカイゼンに生かすことができます。また、チーム内のコミュニケーションや共有を促進し、学習と成長の機会を提供します。
しかしながら、ふりかえりに慣れていないチームでは以下のような問題が起きがちです。
ふりかえりはチームが今より良い状態になるために行う活動です。 このようなふりかえりが行われると、チームが発言しにくくなり、今より良い状態になっていくことができません。
これらの問題を解決するためには、事前の場づくりが欠かせません。
前提としてふりかえりはチームをより良い状態にするために行うということを忘れてはいけません。上司や他組織への業務報告のために作文をするようなふりかえりはチームの状態を硬直化させてしまいます。ファシリテーションをする人や参加する人はこの目的を再認識しましょう。
「Project Retrospectives: A handbook for Team Reviews」という本の中で記載されているふりかえりのグランドルールです。これを事前にチーム全員で読み合わせ、個人の批判をしないよう心がけましょう。
今日見つけたものが何であれ、チームの全員が、その時点でわかっていたことやスキルおよび能力、利用可能なリソースを余すことなく使って、置かれた状況下でベストを尽くした、ということを疑ってはならない Regardless of what we discover, we understand and truly believe that everyone did the best job they could, given what they knew at the time, their skills and abilities, the resources available, and the situation at hand.
Try に出すアイデアは Problem の解決だけではありません。Keep をさらに良くするアイデアも Try の候補になります。ファシリテーターが Keep からアイデアを広げるように促すことで良い Try のアイデアが出てくることでしょう。
初心者が KPT を始めると留意しなければならない点が多くあります。そこで気軽に始められるふりかえり手法「Fun Done Learn」を紹介します。
「Fun Done Learn」とは、2018 年 Scrum Coaches Retreat in Okinawa にて提唱されたふりかえりのフレームワークです。Fun Done Learn では、起きた出来事を Fun(楽しかったこと) Done(終わったこと) Learn(学んだこと)のそれぞれに分類します。
KPT とは異なり、何を書いても構いません。また、Try を出さないため、制約なく自由に書くことができます。 書いた後は、ふせんが「Fun Done Learn」のどれに当てはまるかチームで議論します。これにより、自然と会話が生まれ、コミュニケーションが活性化されます。
「Fun Done Learn」はその手軽さと自由度から取り組みやすい反面、注意すべき点があります。
「Fun Done Learn」では「Try」のステップがないため、問題解決やカイゼン策に対する具体的なアクションプランが立てにくい傾向にあります。この点を意識的に補うため、ふりかえりの終わりに Try について議論する時間を設けたり、別途 KPT 等の「Try」のあるふりかえりを行うことが有益です。
「Fun Done Learn」の手法は基本的にポジティブな意見が集まりやすいですが、一方でネガティブな意見が抑制されてしまうチームもあります。この場合、「ネガティブなことを言ってはいけない」という先入観が含まれていることがあります。この問題を解決するためにはチームメンバー全員が自由に意見を述べられるような安全な環境を作ることが必要です。
どれぐらいの sprint でどのようなふりかえり手法を使うかは各チームに委ねられています。私(中島)がいるチームでは、毎日 Fun Done Learn で 30 分程度のふりかえりをおこなっています。具体的なカイゼン策やプロジェクトの節目には KPT や Timeline を使ってふりかえることがあります。
私たちのチームでは、アジャイル開発未経験のお客様と一緒のチームになってプロダクト開発に取り組むことが多いです。ふりかえりのファシリテーションでは事前に以下のようなものを用意しなければなりません。
また、ふりかえりにあたってはチームメンバーが立場によらず安心して発言できる環境づくりやファシリテーションが重要です。はじめてふりかえりを始める人にとって、ふりかえりのファシリテーションはとても難しいものです。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は、組織の柔軟性とスピードを強化することによって達成されます。アジャイル開発は、これらを可能にする強力な手段です。特に、アジャイル開発の中で「ふりかえり」はキープロセスであり、チームが学習し、カイゼンを図る重要なイベントです。
しかし、「ふりかえり」を行うには、適切なツールと環境が必要です。私たちが開発した「anycommu」は、その両方を提供します。
実際に私たちのチームでは、コロナ禍のフルリモート環境において新しいメンバーをうけいれてきました。その中で「Fun Done Learn」を中心としたふりかえり手法とこの「anycommu」を通して「チームに受け入れられている感がある」「毎日何気ない話をすることができる」といった声が上がってきています。
また、開発チームだけでなく、プロボノやスポーツチームなど、さまざまな場面に活用されてはじめています。DX のはじめの一歩として、まずは「ふりかえり」から始めてみませんか?
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