2020/12/23
KDDI AWS技術担当 松本です。
AWS Wavelengthについて、先の記事で概要をご紹介しました。本記事では、具体的なユースケースについてお伝えしていきます。2020/12のGAに先行して、本サービスの有用性の確認のため、一部のお客様と共同で事前トライアルを実施しました。公開可能な以下の3社との取り組みについてご紹介します。
お客様の課題
・TVT様は、オンラインゲームの開発などを行っている企業です。 ・オンラインゲームを開発する際、ネットワークの遅延はゲームの設計に大きく影響します(複数プレイヤー間の同期処理の考慮など)。もし安定的に低遅延な環境が提供されるのであれば、ネットワークを経由して行うデータ処理の量や頻度を増やすことができ、より高度なユーザー体験を提供できる可能性があります。 ・今回、ネットワーク遅延の影響がダイレクトに可視化されるようなゲーム「後だしじゃんけん」を検証用に準備し、ネットワーク遅延の違いによるユーザー体験の確認を行いました。
トライアル内容
図1:TVT様トライアル環境
・Wavelength上に管理サーバー(ユーザー間のセッションを管理)を構築し、出題者、参加者#1/#2がそれぞれ管理サーバー経由で通信を行います。 ・「後だしじゃんけん」というゲームを通じて、ユーザー体験を確認します。 – 出題者と参加者#1は5G回線、参加者#2は4G回線で接続します。 – 出題者が出した手「例:グー」が参加者に配信されるので、参加者はそれに勝つ手「例:パー」を選択します。参加者が手動で回答する場合、参加者の反射神経にも依存しますが、5G参加者のほうが先に出題者の手が見られるので有利です。また、参加者が自動応答モードの場合、ネットワーク遅延が少ない5Gのほうが完全に有利です。 ・本検証では、サーバーはAWS Wavelengthを利用することを前提として、接続回線が5Gと4Gではユーザー体験がどれくらい違うのかを比較することにフォーカスしています。
結果
図2:勝負結果
手動モード、自動応答モードともに、参加者(5G)の圧勝でした。5G回線の低遅延を確認することができました。
図3:検証の様子
出題者(女の子)は、実際には中の人(演者)がいて、頭と両手にモーションキャプチャをつけて、その信号を送ることにより、身振り手振りがそのまま女の子の所作となるのですが、その動きの反映も非常にスムーズで、こちらもAWS Wavelengthの低遅延性が活かされていると思いました。
TVT様からは以下のコメントを頂きました。 ・「実験環境では、5G回線に接続する端末のRTTが4G回線のそれと比較し40~50%に抑えられた」 ・「光固定回線に匹敵する低遅延性により、ゲームデザインの自由度が拡大し、ひいてはユーザーのゲームプレイ体験が向上する期待を持てた」 ・「低遅延な5Gが普及するには、ハード面のみならず通信料金面の課題もあるので、今後も注目していく」
TVT様をはじめとする、エンターテインメント業界からのご期待に応えられるよう、継続してサービスの向上を図っていきたいと感じました。
お客様の課題
・日置電機様は長野に拠点を置く計測器のメーカーです。 ・計測器を用いて、複数のデバイスからデータを収集して分析を行うことがありますが、その際、各デバイスの時刻が正確に同期されていることが必須となります(例えば、複数の場所に配置されたセンサーの電圧値の変動を調べる場合など)。 ・デバイスの時刻を合わせる方法として、現在いくつかの方法があるものの、例えばGPSは高精度だが場所が限定される、有線でのNTPは敷設・管理コストがかかる、4G回線でのNTPはレスポンスの変動により期待する精度に至らない、という課題がありました。 ・今回、「5G回線経由でWavelength上のNTPサーバーにアクセスして時刻同期を行えば、低遅延かつ安定した品質でのアクセスができることから、高精度な時刻同期が実現できるのではないか?」との仮説の元、比較検証を実施しました。
トライアル内容
図4:日置電機様トライアル環境
・東京リージョン、およびWavelength ZoneのそれぞれにNTPサーバーを立てます。 ・ラズパイ#1/2(2台)は5G回線経由でWavelength上のNTPサーバーと、ラズパイ#3/4(2台)は4G回線経由で東京リージョンのNTPサーバーと時刻同期を行います(それぞれ、図の赤線、青線の経路となります)。 ・測定器にGPSモジュールを接続し、GPS経由で正確な時刻を取得します。 ・各ラズパイからは、1秒ごとにパルスを出力し測定器へ出力します。 ・測定器にて、各ラズパイからの入力が、レファレンス(基準)としているGPS時刻に対しどれだけずれが発生するのかを計測します。1時間程度継続して測定を行います。
結果
・ラズパイ#1/#2(5G/Wavelength)はGPS時刻と比較して2ms程度、ラズパイ同士では1ms程度のずれで収束する結果となりました。一方ラズパイ#3/4(4G/東京リージョン)はGPS時刻とのずれは10ms程度、ラズパイ同士では5ms程度のずれであったため、5G/Wavelengthの優位性が確認できました。 ・NTPはクライアントとサーバーの行き帰りの通信時間が同じであることを前提に時刻を合わせるプロトコルであり、ネットワーク遅延やジッタ(遅延のゆらぎ)がずれの原因となります。5G/Wavelengthを使用すると、それらの値が4G/東京リージョンの場合と比較して定常的に小さくなることから、結果として高精度の時刻同期が実現できていると考えられます。
図5:検証の様子
日置電機様の測定器にGPSモジュールおよびラズパイを接続し、測定器にてパルス入力のタイミングを画面表示しているところです。このような形で取得したデータを時系列データとして出力し、集計、分析しました。
日置電機様からは以下のコメントを頂きました。 「今回、5G MEC環境を提供いただき、グローバルな課題である「時刻同期性能」を改善できる可能性を確認しました。いち早く最先端環境を体験できたことに感謝します。今回得た知見を新しい計測ソリューションに展開していきます。」
今回のユースケースは、我々KDDIではなかなか思いつくものではなく、普段こうした課題に取り組まれている日置電機様だからこそ出てくるアイデアだと思います。引き続き、様々な業種、業態のお客様とユースケースを発掘していきます。
お客様の課題
・ブレインズテクノロジー様は、機械学習を用いたデータ検索、データ分析を提供する企業です。 ・同社の異常検知ソリューション「Impulse」では、例えば工場内の装置の測定値(例えば電圧、温度などの各種の値のセット)を時系列データとして収集して、学習モデルを構築し、異常が発生した際に検知、通知する、といったことを実現しています。 ・「Impulse」の処理サーバー(データを収集・分析し、異常を検知する機能を具備)はソフトウェアとして提供されるため、オンプレミス(工場などの敷地内)、もしくはパブリッククラウドのどちらに展開することも可能ですが、オンプレミスであれば応答速度は速いがサーバーのメンテナンスが大変、クラウドであればその逆、といったメリット・デメリットがありました。 ・今回、AWS Wavelengthを使用することにより、両者のいいところどりができるのでは?という期待の元、検証を行いました。
トライアル内容
図6:ブレインズテクノロジー様トライアル環境
・東京リージョン、およびWavelength ZoneにそれぞれImpulseのサーバーを構築します。東京リージョンのS3にある学習モデルをインポートとして使用します(Wavelength ZoneのサーバーもS3にアクセスすることができます)。 ・PC#1/#2に、実際に工場で収集した時系列データ(正常値、異常値が含まれる)を保存します。このデータをMQTTの仕組みを用いてImpulseサーバーに送信します。 ・PC#1は5G経由でWavelength Zone内のImpulseサーバーへ、PC#2は4G経由で東京リージョンのImpulseサーバーへデータを送信します(それぞれ、図の赤線、青線の経路になります)。 ・PCからデータを送信⇒Impulseサーバーにて値を分析し、異常と判断⇒PCに折り返し異常を通知 までの3つのステップにかかる時間を測定します。
結果
・5G/Wavelengthの組み合わせでは、4G/東京リージョンの環境と比較して約43%の遅延時間短縮を図ることができました。 ・今回はオンプレミスとの比較は行っていませんが、5G/Wavelengthの組み合わせでは、低遅延の実現、かつクラウドの利便性の享受が両立できており、オンプレミスと比較してのメリットが出せていると考えられます。 ・また、AWS Wavelengthに対して、「Internet区間を通らないためセキュアである、という価値もあるのではないか?」とのコメントも頂きました。
ブレインズテクノロジー様からは以下のコメントを頂きました。 「5G x Wavelengthは、セキュアで低遅延な信頼性の高い推論処理と学習に必要な高いクラウド技術により、ものづくりのデジタル化を加速させるものと確認しています。」
検証作業をやっている間、異常検知が今どのような現場で使用されているのか、さまざまな導入事例をお伺いしたのですが、非常に幅広い分野で利用されているとのことでした。低遅延性が求められるユースケースの際に、またぜひご一緒させていただければありがたいと思います。
最後に全体を通してですが、今回ご紹介しきれなかったユースケースも含めて、お客様の課題を5G x AWS Wavelengthで解決できないかチャレンジする、という取り組みは非常に刺激的な業務でした。現在、「ぜひ自分のところでも使ってみたい」という引き合いを頂いている案件もありますので、引き続きお客様にどのような価値を提供できるのか、様々な案件を通じて明確化していきます。繰り返しになりますが、2020/12現在、AWS Wavelengthはどなたでも利用可能(事前承認は必要)となりましたので、「ネットワーク遅延に課題がある」という方はぜひご利用ご検討ください。
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・「AWS Wavelengthの構築手順 及び 具体的活用事例」 「AWS Wavelength」の基本環境を構築する際の具体的な設計・設定手順について、注意事項や使ってみた所感も含めつつ開発者目線で解説します。また、お客さまと共同で実施した事前トライアルの取り組みについてもあわせてご紹介します。 <講演者> ソリューション事業本部 プラットフォーム技術部 マネージャー 松本 健太郎